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ホテル朝食値上げ第二波 — 2026年に加速する『朝食赤字』との決別

投稿日 : 2026.05.03

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ホテル朝食値上げ第二波 — 2026年に加速する『朝食赤字』との決別

2026年に入ってから、ホテル各社による朝食料金の改定発表が相次いでいる。ANAクラウンプラザホテル釧路が大人2,200円から3,300円へと一気に50%引き上げたのを皮切りに、広島ワシントンホテル、ホテルグレイスリー札幌、大磯プリンスホテル、名鉄小牧ホテル、広島インテリジェントホテルアネックスなど、グレード・地域を問わず2026年1月〜4月に値上げ告知が集中している。これは2023〜2024年に一巡した第一波の値上げに続く「第二波」であり、しかも改定幅が一段階大きい点が特徴的である。なぜいま再び値上げの波が押し寄せているのか。本記事では公開告知ベースで把握した10件超の改定事例を整理し、宿泊単価との比率分析、朝食オペレーションの構造的赤字、そして素泊まり化との二項対立という三つの切り口から、2026年のホテル朝食戦略を読み解く。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):OTA等で公開されている販売価格の平均値。実際の成約価格とは異なります。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・全プラン平均(素泊まり〜食事付きプランを含む)。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ

第二波の正体:2026年1〜4月に集中する朝食値上げ告知

まず、2026年1月から4月にかけて公式に発表された朝食料金改定の事例を一覧で確認する。下表は各ホテルの公式ウェブサイト掲載のお知らせから抜粋・整理したものである。値上げ幅は改定前後の大人料金から算出している。

ホテル名 改定日 改定前 改定後 値上げ率 グレード帯
ANAクラウンプラザホテル釧路2026/1/1¥2,200¥3,300+50.0%アッパーミッド
広島ワシントンホテル2026/1/1¥1,980¥2,200+11.1%ビジネス
ホテルアーバングレイス宇都宮2026/1/6+50〜400円+5〜20%ビジネス
ホテルマイステイズ広島平和公園前2026/1/2改定実施ビジネス
ホテルグレイスリー札幌2026/2/1¥2,800¥3,000+7.1%ミッドスケール
大阪ビューホテル本町2026/3/1¥2,000前後¥2,310+15.5%ミッドスケール
大磯プリンスホテル2026/4/1¥3,600¥3,800+5.6%アッパーミッド
広島インテリジェントホテルアネックス2026/4/1¥1,300前後¥1,600+23.1%ビジネス
広島グランドインテリジェントホテル2026/4/1¥2,200前後¥2,500+13.6%ミッドスケール
名鉄小牧ホテル2026/4/1¥2,200前後¥2,500+13.6%ミッドスケール

出典:各ホテル公式サイト掲載のお知らせよりホテルバンク編集部作成(2026年1〜4月発表分、N=10)

この一覧から見えるのは、まず改定が「特定グレード・特定地域に偏らない」点である。素泊まり1万円前後のビジネスホテルから3万円超のアッパーミッドクラスまで、北海道から広島・大阪・首都圏まで広く分布している。第一波(2023〜2024年)の値上げは主にラグジュアリーホテルや有名シティホテルが牽引したのに対し、第二波はビジネスホテル・地方ホテルにまで波及している点が決定的に異なる。さらに、改定理由として「食材や諸経費の高騰」「物価・燃料・配送等の高騰」と並んで「サービス品質の維持・向上」を掲げるホテルが目立つことも示唆的である。前者は受動的な値上げだが、後者は「品質を保つために価格を引き上げる」という能動的な姿勢への転換を意味している。

値上げ幅の三層構造:穏当層・実質補填層・構造再設計層

値上げ率の分布をもう少し詳しく見ると、明確に三つの層に分かれていることが分かる。9〜15%の「穏当層」、15〜30%の「実質補填層」、そして30%超の「構造再設計層」である。各層の代表事例とともに、その意味を整理する。

出典:各ホテル公式サイト掲載のお知らせよりホテルバンク編集部作成

穏当層(9〜15%)は、広島ワシントンホテル(+11.1%)やホテルグレイスリー札幌(+7.1%、ぎりぎり下限)、大磯プリンスホテル(+5.6%)など、過去2〜3年の食材コスト上昇分を控えめに転嫁した形である。値上げ前後の絶対額差は200〜220円程度で、宿泊客の価格知覚を大きく刺激しないラインに収めている。一方、実質補填層(15〜30%)は広島インテリジェントホテルアネックス(+23.1%)、大阪ビューホテル本町(+15.5%)に代表される。ここでは過去複数年に積み上がった原価上昇分をまとめて反映しており、いわば「据え置きツケの清算」と言える水準である。

そして注目すべきは構造再設計層(30%超)で、ANAクラウンプラザホテル釧路の+50.0%が突出した事例となる。1,100円という値上げ幅は、もはや原価上昇の補填というよりも、朝食提供の前提そのものを再設計した数字と解釈できる。同ホテルが告知文で掲げた「より上質な朝食をご提供するため」というフレーズは、メニュー構成・調達方針・運用人員配置までを含む抜本的な見直しを示唆している。これは値上げ第二波の到達点を象徴するパターンと言えるだろう。

なぜ今なのか:宿泊単価上昇と朝食料金の比率という視点

朝食値上げを正しく評価するには、宿泊単価との比率で見るのが有効である。2026年4月時点でメトロエンジンリサーチが集計した主要都道府県のADR(平均客室単価/販売価格ベース、2名1室税込)と、ビジネスホテルカテゴリ別ADRを並べると以下のようになる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年4月、N=東京都1,634/京都府1,479/大阪府855/北海道1,456/沖縄県1,715/福岡県723施設)

主要6都道府県のADRはいずれも前年同月比でプラスを記録しており、京都府+18.6%、東京都+17.4%、北海道+11.2%、大阪府+8.4%、沖縄県+7.0%、福岡県+5.2%という伸び率である。つまり宿泊価格そのものが大きく上昇している局面で、朝食料金もこれに歩調を合わせる形で改定されているという解釈ができる。例えば北海道のビジネスホテル平均ADRは1万5千円前後が相場と推定され、ANAクラウンプラザ釧路の朝食改定後3,300円は宿泊単価のおよそ20〜25%に相当する。これは「朝食代が宿泊価格の2割を占める」水準であり、消費者の価格感度を直接刺激する閾値である。宿泊単価がここまで上昇してきた背景の構造分解は、全国平均ADR¥32,340で過去最高更新(2026年5月)で物価高と人件費転嫁の3年累積効果として詳しく整理している。

出典:各ホテル公式朝食料金とメトロエンジンリサーチ集計のグレード別ADRよりホテルバンク編集部作成

ビジネスホテルカテゴリのADRが2026年4月時点で15,037円(N=7,123施設)であるのに対し、ミッドスケール〜アッパーミッドのシティホテル等は24,666円(N=1,093)、リゾートホテルは42,946円(N=1,512)と階段状に上昇する。朝食料金もこのADR階段におよそ連動しており、ビジネスホテル1,500〜2,500円、ミッドスケール2,500〜3,000円、アッパーミッド3,500〜4,000円というレンジが形成されている。第二波の値上げによって、この階段の中でビジネス層が「2,000円台前半」から「2,500円超」への閾値突破を進めている点が市場構造の変化と捉えられる。

構造的赤字:『2,200円プランで原価率120%』の現実

朝食値上げの背景には、ビジネスホテル業界に固有の構造的赤字問題が存在する。ジャーナリストの瀧澤信秋氏が2024年に発表した記事『原価率120パーセントも!?【ビジネスホテル朝食合戦】』では、人気の和洋ビュッフェスタイルを2,200円台で提供する一部ホテルでは、食材原価率が販売価格を上回る「赤字朝食」状態に陥っている事例が紹介されている。これは集客手段としての朝食を続けてきた結果、品質競争が走りすぎ、原価ラインを越えてしまった構造である。

典型的なホテル朝食ビュッフェの収支を整理すると、料理原価(食材費)が販売価格の40〜60%、人件費(料理人・サービス・洗い場)が15〜25%、エネルギー費(厨房ガス・電気)と消耗品が5〜10%、共通費負担(場所費・減価償却)が10〜15%程度となる。ここから経常利益を確保するには、原価率は40%台に抑える必要があるが、過去数年の食材高騰でビジネスホテル価格帯では原価率が60〜80%、極端な事例では100%超まで上振れしてしまったわけである。さらに、サービス料率の引き上げや時給上昇による人件費インフレが加わり、構造はさらに歪んでいる。この人件費インフレが客室価格にどう転嫁されているかは、人件費転嫁型ADR上昇の正体がOCC×ADRの乖離という観点から背景を掘り下げている。

出典:業界一般原価モデル(瀧澤信秋氏記事『原価率120パーセントも!?』および敷島製パン『ホテルビュッフェの原価率』記事を参考)よりホテルバンク編集部試算

つまり、2026年の値上げ第二波は単なる物価転嫁ではなく、朝食事業の損益分岐点を回復するための「構造調整」の側面が強い。広島ワシントンホテルが告知文で「食材や諸経費の値上がり」を率直に挙げ、ANAクラウンプラザ釧路が大幅値上げと同時にメニュー強化を予告したのは、この構造調整を消費者にも納得してもらうための説明戦略である。なぜなら、朝食を黒字事業に戻すには、料金引き上げか、あるいは朝食付き比率を下げる(=素泊まり化)かの二択しかないからである。

分岐点:朝食付加価値戦略 vs 素泊まり化という二択

ホテル経営者が直面しているのは、朝食を「収益源」として磨き込むか、「コストセンター」と割り切って素泊まり中心に切り替えるかの戦略選択である。両者は朝食の位置づけが正反対であり、必要なオペレーション能力もまったく異なる。それぞれの利点と難点を整理してみる。

戦略軸 朝食付加価値戦略(A案) 素泊まり化戦略(B案)
価格設定朝食2,500〜4,000円、上質メニュー前面化朝食オプション化、外部提携も視野
必要なケイパビリティ調理人員、メニュー開発、地産食材調達客室回転効率、清掃自動化、IT基盤
客単価への効果+15〜25%(朝食付き比率次第)客室単価のみで勝負、上振れは限定的
レビュー評価への影響朝食はレビューの満足度ドライバー、評価上昇余地朝食ゼロは『安価ゲスト層』の評価下振れリスク
適合グレードアッパーミッド以上、観光地立地ビジネス層、駅前立地
代表事例ANAクラウンプラザ釧路、大磯プリンス朝食オプション化を進める都市型ビジネスホテル各社

出典:ホテルバンク編集部による業界トレンド整理

A案を採るホテルは、朝食を「滞在体験の中核コンテンツ」として位置づけ、地産食材・出来立てメニュー・ライブクッキングなど価値訴求要素を盛り込みつつ、3,000円超のレンジに踏み込む。アッパーミッド以上、観光地・温泉地立地のホテルに適している。これに対しB案を採るホテルは、朝食提供を縮小・廃止または外部委託に切り替え、客室周りの回転効率と料金管理に経営資源を集中する。出張需要中心の駅前ビジネスホテルや短期滞在型のシティホテル新業態に向いている。

注意したいのは、A案・B案のいずれも「中途半端な2,000円ビュッフェ」を続けるよりは経済合理的だという点である。むしろ最も避けるべきなのは、原価率が悪化したまま「朝食付き2,000円」のレンジに据え置く戦略であり、これは赤字を温存しつつ顧客満足度の劣化も招く悪循環を生む。第二波の値上げ告知が相次いでいるのは、各社がこの「中途半端ゾーン」から抜け出すための戦略決断を下している証左と読める。

消費者向け:朝食付きプランの賢い選び方

値上げが進む中、宿泊客サイドはどう動けばよいのか。朝食付きプランを選ぶ際のチェックポイントを整理する。第一に、外来客向け朝食料金とプラン内朝食料金の差を確認する。広島ワシントンホテルの例では宿泊客向け2,200円に対し外来客向けは2,420円と220円の差があり、改定後にこの差が拡大したケースもある。第二に、朝食「のみ」追加した場合の差額と、朝食付きプランの価格差を比較する。素泊まり+当日追加で1,000〜1,500円程度の差が出ることが多く、最初から朝食付きで予約した方が割安なケースが多い。

第三に、朝食内容のレビュースコアを最低限チェックすることが重要である。レビュースコア4.4以上の朝食ならば3,000円台でも「価格に見合う体験」と評価される傾向にあるが、3.8以下の朝食を3,000円で食べるのは満足度面で疑問符がつく。レビュースコアからホテル食事の体験価値を見極める方法は、記念日に選ばれるホテルダイニングでラグジュアリー帯の口コミ分析として整理している。第四に、リーズナブルな朝食を求める出張者は、ホテル外の選択肢(駅前カフェ、コンビニ、地元朝食店)も視野に入れるとよい。素泊まり+外朝食の組み合わせの方が、ホテル朝食付き比べて1,000〜2,000円安くなるケースが珍しくない。

業界向け:第三波の予兆と戦略示唆

2026年4月時点で観察できる値上げ第二波の動きから、業界関係者が今後注視すべきポイントは三つある。一つ目は、第三波の存在である。2026年下半期から2027年にかけて、第二波で値上げを見送ったホテルが追随する可能性が高い。なぜなら、横並び意識が強い日本のホテル業界では「他社が値上げしているのに自社だけ据え置き」という状態は持続困難であり、品質維持のための原資確保という観点からも、追随圧力が強まるためである。

二つ目は、地方ホテルの動向である。第二波の値上げは広島・札幌・釧路・宇都宮など地方都市にも広がっており、これは2024年までのインバウンド需要の地方分散に呼応した動きと解釈できる。地方ホテルが朝食料金で2,500円台に踏み込むのは、長らく「地方価格」と呼ばれてきた水準感の崩壊を意味する。三つ目は、朝食レス業態の拡大である。素泊まり中心のリーズナブル業態(簡易ホテルやアパートメント型宿泊)の市場シェアが、朝食値上げを契機にさらに拡大する可能性がある。これは既存ビジネスホテルにとっては需要喪失リスクであり、戦略的な業態選択を迫る要因となる。

まとめ:『朝食赤字との決別』が始まった

2026年1月から4月にかけて発表された朝食料金改定の事例10件超を分析した結果、以下の三点が浮かび上がった。第一に、値上げは特定グレード・地域に限定されず、ビジネスホテルから上位ホテルまで幅広く波及している。第二に、値上げ幅は9〜15%の穏当層、15〜30%の実質補填層、30%超の構造再設計層という三層構造を示しており、ANAクラウンプラザ釧路の+50%は構造再設計の象徴と言える。第三に、これらの動きは食材高騰への単純な対応ではなく、朝食事業の損益構造を黒字化に戻すための戦略選択であり、各ホテルは「朝食付加価値戦略」と「素泊まり化戦略」のいずれかへの方向性を明確化させつつある。

2024年までのホテル朝食合戦は「集客のための原価度外視」という奇形的な競争を生んでいた。2026年の値上げ第二波は、この赤字朝食からの決別を宣言する動きと位置づけられる。今後、宿泊単価のさらなる上昇と並行して、朝食料金の3,000円台が「標準」となり、4,000円台が「上質」を示すレンジに移行していく可能性が高い。消費者にとっては「朝食付きを選ぶか素泊まりを選ぶか」の意思決定がより重要になり、業界にとっては中途半端なポジションを許さない時代の幕開けと言える。値上げが収益改善とサービス品質向上の両立につながるかどうかは、各ホテルの次の一手次第である。

将来日程のADRに関する注意:本記事のADRは調査時点でOTAに公開されている販売価格の平均であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点で高く設定されている価格が直前値下げで下落する可能性がある点にご留意ください。

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